アル中病棟 入院記(4):1日のスケジュールと退屈な日常との戦い

03.アル中病棟 入院記

こうして朝食を終えた私は、アル中病棟での生活を始めることになりました。まず私が最初に慣れる必要があったのは、病院特有の「生活リズム」でした。

それはどのようなものなのか、自分なりにおおまかな「パート」に分けて書いてみたいと思います。

アル中病棟の1日:そのスケジュール

—<朝の部>—
6:00 起床
※病棟内での喫煙タイムあり(20分)
7:00 朝礼
※朝礼後、病棟解錠:屋外の喫煙所へ
8:00 朝食・服薬
※朝食後、瞑想までは歯ブラシや筋トレなど
8:45 瞑想・検温(+血圧・脈拍測定)
—</朝の部: 9:00頃までにひととおり終了>—

※以後、午前のプログラムまでFree(喫煙タイム)

—<午前の部(治療プログラム)>—
10:00~11:30 (1コマ: 約90分)

—<昼食・服薬・昼休み>—
(ランチタイム込みで、午後のプログラムまで約2時間の休憩)

※昼食後は基本、午後のプログラム開始までFree(喫煙タイム)

—<午後の部(治療プログラム)>—
13:30~15:00(1コマ: 約90分)

※プログラム終了後〜入浴開始までFree(喫煙タイム)

—<夜の部>—
16:00 入浴開始(AAなどで外出する方優先。夕食の18:00まで)
※入浴後はFree(喫煙タイム)
17:00  病棟1F施錠
※いわゆる門限。外出からの帰棟も、外の喫煙所から戻るのもこの時刻厳守
18:00 夕食・服薬
※夕食後、病棟内での喫煙タイムあり①(20分)
19:00 瞑想(私の場合は+筋トレタイム)
※瞑想後、基本消灯までFree
20:00 病棟内での喫煙タイムあり②(20分)
21:00 消灯(食堂のみ点灯・TV視聴など可)・睡眠薬服用可
22:00 病棟内での喫煙タイムあり③(20分)
23:00 食堂消灯(完全消灯)
—</夜の部終了>—
※ 午前2:00まで: 追加睡眠薬(安定剤)の処方受付

スケジュール表だけ見るとびっしりな印象を受けるかもしれないが……

いかがでしょうか。こうして時間刻みにされると、なんだか一日がわりとぎっしり詰まっているような感じがしてきます(私も最初このスケジュール表を見て、そんな錯覚をしていました)。

とはいえ実際には、大きく「朝」「日中」「夜」の3つの時間区分しかありません。

  1. 朝:6:00~9:00
    • 起床から朝食や検温などを含め、9:00までは病院内に拘束される
  2. 日中(デイタイム):9:00~17:00
    • 病棟内での「治療プラグラム(ARP: アルコール依存症・リハビリ・プログラム)」は、基本的に午前と午後の2コマしかない(大学風にいえば、2限と3限しかない)
    • プログラムのない時間帯や、まるまる一日休講の日(祝休日)は外出チャンス
  3. 夜:17:00~23:00
    • 17:00以降は病棟内に拘束(AA/断酒会で外出する場合を除く)
    • 喫煙は病棟内の喫煙所でのみ、所定の時間帯のみ許される(3回、20分ずつ)

という3パートです。このうち「朝」と「夜」の行動範囲は病棟内(病室・食堂のある居住棟内)に限定されます。そして(外も含めて)自由に動けるのは、9:00~17:00のデイタイムになりますが、実際には入院中のプログラムは午前と午後の2コマしかありません(しかも、しょっちゅう休みになる)。

しかも私の場合は、入院したのは月曜日、ガッチャン部屋を出て病棟生活を始めたのが火曜日でした。では火曜日からプログラムがあるのかといえば、そうではありません。週に一回しか行われないARP(治療プログラムのこと)のオリエンテーションを受けるまでは何もプログラムすらない、ということが朝食後すぐに判明しました(私の場合は、金曜まで何もないことが明らかになりました)。

さらにプログラムが始まったとしても、その合間には必ず数十分のFree Timeが生じます。とはいえ、病院を出るわけにはいきません(近場のコンビニですら片道20分かかりますし、それ以外周囲には何もありません)。そうなると、あとは病院内でテレビを見るか、病室内のベッドの上で読書をしたりスマホをいじったりするか、あとは屋外の喫煙所でタバコを吸うくらいしか暇つぶしの手段はありません。

要するに実際には、入院生活はものすごく暇な毎日の連続なのです。

アル中病棟での最初の”難敵”、それはシラフのまま過ごす退屈で暇な時間 ― How can I do killing time?

退屈な日常の連続。入院早々、これにはさっそく参ってしまいました。

というのも、これもまた「アル中あるある」だと思いますが、アル中にとって退屈な時間というのは「あってないようなもの」です。暇さえあれば酒を飲んでいますし、酒さえ飲んでいれば退屈を感じることもなく時間はどんどん過ぎていきます。基本的に身体を動かす気力も体力も失われていますから、何かで「暇つぶしをする」という概念すら失います。ただ、飲んでは寝て、起きては飲んでの繰り返しに身を任せるだけでいいのです。こうした極端なまでに堕落した生活へと容易く落ち込んでしまうのが、アルコール依存症の怖いところだと本当に思います。

しかし、つい昨日まではそうだった自分が、今度はいきなりシラフの状態で、ロクな娯楽も暇つぶしの手段もないまま、アル中病棟という空間に叩き込まれるとどうなるか。そこにはとても規則正しくて、やたらと夜が早くて朝も早い「朝型」の生活時間が流れています。それは確かに、はたから見れば「健康的」です。ただ、その規則正しい生活リズムの中身が「過密」で「充実」したものであれば何も悩むことはないのですが、実際の印象としてはあまりにも「スカスカ」という感じなのです。

酒という最良の “Killing Time” の手段を失った自分は、このゆったりと膨大に待ち構える暇な時間をどうやり過ごししてけばいいのか、軽く愕然とします。こんなことは、普通の人であればあまりにも簡単なことで、当たり前のように向き合えるはずですが、シラフの自分にとってはそうではないのです。果たしてこれからの2ヶ月間、何をして時間を潰していけばいいのか。最初のうちは途方にくれました。

特に私の場合は、テレビは普段から見ませんし、日中から読書やスマホで病室内にこもる気持ちにはなれませんでした(読書用のiPadは持ってきていましたが、これは眠れない時に夜読むつもりでした)。なにより昼間も病院内で引きこもっていたら、”シラフだからこそ”頭がおかしくなりそうな気がしたからです(実際には、アルコールで頭がおかしくなったからこそ入院しているわけですが……)。

ですから上のタイムスケジュールでもわざわざ書きましたが、私の場合は「喫煙タイム」が生活リズムの中心になっていきました。そして私が選んだのは、実際私は入院2日目の朝食後、その日の午前・午後のプログラムはまるまる受けられないことが分かると、早速外出届を出して、近くのコンビニまで買い出しに出かけました。病棟のスタッフからは初外出ということもあり、酒は買わないようにと何度も念を押されましたが、私としてはもう酒を飲む気はさらさらなく、早くライターが欲しくて仕方がないという一心でした。それこそが、この病棟での最大の武器になると思えたからです。

……というと極めて不健康な響きがすると思いますが、ここは説明が必要でしょう。ちなみに私の場合は、タバコが吸いたくて仕方がなくなるタイプではありません(いわゆるニコチン依存はなく、だからこそここ数年はほとんど吸っていなかった)。しかし喫煙所でスマホでもいじりながらタバコを吸っていれば、一人二人と灰皿を囲む人が加わり、何気ない世間話や情報交換の機会が生まれ、「タバコ仲間」の輪が自然に形成されていくものです。

私にとっては、これが大きな暇つぶしの手段であっただけではなく、他のアルコール依存症の仲間たちとの相互理解のきっかけにもなりました。いうなれば、(喫煙所トークという)精神的メリットと(タバコによる害毒という)身体的デメリットを天秤にかけて、私は前者のほうを選んだわけです。あくまで、入院中の一時的手段として、ですが。※ちなみに退院後、タバコの量は激減しました。今ではAAのときに1本吸えばいいくらいです。

実際、(他の方はこんな言い訳がましいことは考えていないと思いますが。汗)アル中病棟での喫煙者はかなりの多数派でした。というのもライターは病室内に持ち込めないため、病棟の出入口にはズラリと患者ごとの名前が書かれたライター置き場が(ちょうど学校の下駄箱のように)あったのですが、その数をざっと見る限り、半数以上が喫煙者のようでした。ですから皆、口癖のように「酒はやめたけど今度はタバコ代がかかって仕方がない」とぼやいていました(苦笑)。

これを読む普通の人は、「アル中病棟に入って、単にアル中がヤニ中になっただけ」と思われるかもしれません。しかし、ひとまずアルコール依存症で入院した人間にとって、まず何より生命・健康へのリスクが(心身ともに)極端に高いのは、タバコよりも酒のほうであることは間違いありませんでした。

それは、その後の入院生活を通じて、そしてほどなく始まっていったARPの講義で、私はいやというほどアルコールという物質の毒的性質を学ぶことになるのでした。(続く)

※タバコを吸わない方への補足:ちなみに、上のケースはあくまで自分の場合です。タバコを吸わない方や嫌煙者の方は、アル中病棟に対して不快な印象を持たれたかもしれませんが、実際には病院内でのことですし、当然きちんと分煙対策はなされています。ですから、もし仮にタバコを吸わない方が入院されたとしても、不愉快な思いをすることはほとんどないと思います(喫煙者が多い以上、臭いなどの面で「皆無」とはどうしても言えませんが……)。

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