アル中病棟 入院記(3):自由な食事は、気持ちがいい【初めての朝、起床から朝食まで】

03.アル中病棟 入院記

眠れぬガッチャン部屋での一夜が明け……共同病室へ

ガッチャン部屋での眠れぬ夜。朝6時の起床時間、私はすぐに目を覚ましました。病棟では、いやおうなく病室にライトが点灯されるため、厳重にアイマスクでもしていなければいやでも眩しくて目が覚めるからです。

そして私はほどなくして、早々に共同部屋へと移りました。「今日から入るXXさんでーす」とスタッフの方が案内してくださるので、私も「おはようございます」と挨拶をしつつ、まずは早速荷物の整理をはじめました。ガッチャン部屋を出ると同時に、手首に巻きつける紐付きロッカーの鍵を渡されましたので、まずは「貴重品はこちら」「衣服はこちら」「リュックはこちら」といった具合に、ロッカーとベッド下のケース(これは鍵がかからないタダの箱)へとしまっていきました。とくに貴重品(財布)は、「必ずスタンドロッカーのほうに入れるように」とスタッフの方から言われていましたので、そのようにして何度も鍵の具合を確かめました。

朝礼:抗酒剤と断酒宣言

さてこの病院では、朝6時に起床(照灯)があり、朝7時には「朝礼」があります。これはまず全員が一列に並んで「抗酒剤(ノックビン or シアナマイド。これを飲むと肝臓に作用し、アルコールを分解しづらい=酒に弱い体質になる。ただし作用に個人差はある)」を飲み、その後入り口に全員がちょうど学校の朝礼のように一列に部屋ごとに整列します。そして、病棟の誰か1人が当番制で司会として前に立ち、「日付・天気の確認、スタッフからの連絡事項、本日退院される方・昨日入院された方の挨拶、そして『断酒宣言』を全員で唱和」という一連の流れをこなします。雰囲気としては、学校・軍隊・工場の感じに近いものです。

私はちょうど「昨日入院した人」に該当していましたので、前に出て通りいっぺんの月並みな挨拶をしました。寝ぼけていたのであまりはっきりとは覚えていませんが、ひとまず、ここがまず最初に病棟の全員(男性だけですが)を見渡せる最初の機会です。なのでひととおりぐるりと見てみましたが、若い人は非常に少ないというのが第一印象でした。50人近い入院患者のうち、ほとんどは40代〜60代という印象で、私と同じ30代かそれ以下に見えるのは、よくて数人(2〜3人)という感触でした。

断酒宣言は、非常に簡単な、標語ライクな文章を全員で読み上げるというものです(以前、病棟見学したときに見かけた「アルコールは人を赤ん坊にする」といった類の文章)。どんな簡単な漢字にもすべてひらがなのルビが振ってあるところに、「ああ、病院に来たのだな」という感覚を強くします。

さて朝礼が終わると、ほとんどの人はぞろぞろと病棟の外へと出ていきました。1日のスケジュール表を見ると、朝食まではまだ時間があるようなので、おそらく外にある喫煙所へ向かったのでしょう。かくいう私は、タバコをこのときほとんど日常的には吸っていなかった(禁煙していたわけではない)のですが、この病院に入院すると決めてから、入院中は喫煙をしようと決めていました。

というのも「酒が飲めないから、せめてその代わりに」「入院中は時間が余るから、暇つぶしに」といった理由もありますが、私は喫煙所特有のコミュニケーション/コミュニティというものが何よりも好きだったので(というか人見知りで人間関係が苦手なので、そうしたモノを介さないとうまくコミュニケーションが取れない)、入院中もむしろタバコは必須アイテムだなと考えていたのでした。

しかし私は油断していて、普段吸わないものですから、入院時にライターを持ってくるのを忘れていました。スタッフの方に聞くと、ライターは病棟内の売店では販売していないとのこと。これは早速外出をして、近くのコンビニ(といっても一番近い場所で徒歩20分!)まで行く用事ができたな、と思ったのでした。

朝食:”カスタム自由”な食事ルールが呼び覚ましてくれた、「日常生活をちょっとしたハックで楽しむ感覚」

そして朝食です。食堂のテーブルは病室ごとに分かれていて、だいたい座席は決まっているようでした。私は空いているところに座り、「いただきます」と小声でつぶやき食事をはじめました。このとき同じ病室の先輩の方が、「ここではいちいち全員が揃うのを待って”いただきます”という必要はなく、着席したらどんどん食べていいし、食べ終わったらどんどん早く上がっていい」と教えてくれました。実際、すでにその話を聞いたそばから、別卓では「ごちさまです」と食事を終えた方もいたくらいでした。

そして同卓の方々は、ぞくぞくと「サバの味噌煮」「ふりかけ」「マヨネーズ」といった食品や調味料を取り出し、眼前の食卓に加えていくのに驚かされました(「入院中に購入したものリスト」でも触れましたが、この病棟では食事に自由におかずを付け加えてもいいというルールでした)。普通は入院中での食事というと、たんたんと病院から出されたものを食べるというイメージがありましたから、この光景はかなりカルチャーショックがありました。

とはいえ、確かに目の前にある食事は、量も質もあまりにも物足りない感じがあります。ちょうど向かいの方が、缶詰ではなくレトルトパックに入った「サバの味噌煮」を食べていて、私もぜひそれを買いたい・食べたいと思いました。皆さんの会話内容から察するに、どうも駅前にあるスーパーで安く買えるようです。どこどこでいくらだったんですよ、といった情報交換をしているのがわかります。

しかしいま思うと、前日まで酒でほとんどご飯も喉を通らないような生活をしていたのに、早速このときから食欲が湧いていたのには我ながら驚くのを通り越して、いささか呆れます(苦笑)。ただ私の場合は幸いなほうで、もっと酒で身体にダメージを受けて入ってきた方ですと、特に入院当初は食事も喉が通らない場合も少なくありませんでした。私は幸いそうしたことはなく、むしろこの味もくそもあったものではない質素な食事を、各々が独自に工夫して食べているアル中の皆さんの自由でたくましい姿を見て、「よし自分もやってやるぞ!」と早速やる気スイッチが入っていたのでした。

非常に大げさな言い方をすれば、このアル中病棟(特有? なのかどうか、他と比べたことがないのでわかりませんが)の「食事自由」というルールは、「日常生活に些細なハック(細工)をして楽しむ」という価値観・態度を取り戻すという意味で、非常に有益な効果を私にもたらしてくれました。逆にいえば私は、アルコール浸りのこの数年間で、こうしたごく当たり前の感覚すら失っていたことに気づきました。(続く)

 

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